あなたもきっと濵田先輩に騙される
濵田先輩は明るくて優しくて男前な性格だから男女構わずみんなに人気者。
私だって濵田先輩とおしゃべりしたい。
料理部の私は、陸上部で校庭を走っている濵田先輩をじーっと見つめる。相変わらずかっこいい。
彼女いるのかな、なんて何回思った事だろう。
そんな自分に嫌気がさしてまた料理を再開しようとした。そしたら、
「なーんかえーにおいする!!!」
ニコニコの笑顔でこちらに走ってくる濵田先輩。
やばい。あの濵田先輩がこっちにくる!
緊張で固まっていると、濵田先輩が私の顔をのぞき込んで
「いつも練習してるとこ見てるやろ~!誰か好きなん?そいつの余りものでもええから俺に差し入れくれん?」
「!??」
バレてたのかという恥ずかしい気持ちと嬉しい気持ちが混ざって目を伏せる。
「あ、ごめんなぁ~嫌やったよな!」
誤解ですって言おうとした瞬間に濵田先輩のいた校庭から怒鳴り声が聞こえた。
「はまだぁ~~!!!なにさぼっとんねんぼけぇ!!!!!!」
「コーチに見つかってもうた~!最悪やん~!」
濵田先輩がすまんな、って顔しながら去ってく。せっかくのチャンスだったのに。
よし!今日は濵田先輩のためにクッキー作るぞ!
このままでいても何も変わらないからせめてクッキー作って彼女いますかくらいは聞こう!
「濵田先輩!」
校庭で居残り練習をしている先輩に話しかける。
「クッキー作ったのでもしよかったら食べてください!」
濵田先輩は目をキラキラ輝かせてこちらへ向かってくる。私の目の前で止まって
「ほんま!?これくれんの!?余りもんでも嬉しいわ!ほんまありがとう!」
「濵田先輩のために作りました!」
「えぇ!そ、そうなん?じゃああの時もずっと俺のこと見てたんか??」
「…えっと、それは、」
「あぁ!言いづらかったらええねんで!」
やっぱり優しい。こういうちょっとした事でも気を使える濵田先輩に惚れたんだ。
「濵田先輩は彼女いますか?」
「俺?おらへんよ!当たり前やんけ!笑」
いないんだ…!これはチャンスだ!
「また、作ってきてもいいですか…?」
「えぇくれんの!?めっちゃ嬉しい!」
いちいち反応が大きい濵田先輩はその場で飛び跳ねている。こういうところも可愛いと思ってしまうから私はもう重症だ。
はまだぁー帰るぞ~
いつの間にか終わっていた居残り練習。残っていた陸上部の人達もぞろぞろと帰っていく。
「…家まで送っていこか?」
「え、あの、片付けがあるんで!それに友達も一緒だし、その」
さすがに家までとなったら私の心臓が持たない気がしたからだ。
「そっかぁ、しゃーないな!またな!!」
ぶんぶん手を振る濵田先輩はやっぱりかっこよくて、濵田先輩を好きな私はそれだけで幸せだと思った。
けど、私が今まで見てきた濵田先輩は全部、偽物だったんだ。
次の日から私は濵田先輩を部活のときだけではなく学校の中でも探すようになっていた。
濵田先輩を見る度に幸せで、陸上部がある日は毎回差し入れをもっていった。
でも差し入れを持っていく度に一部の陸上部の人がチラチラこっちを見てくる。
今日もまた濵田先輩を待ってる間に、その一部の人に話しかけられた。
「あいつは、止めといた方がええで」
私にはその意味がわからなかった。いつも優しい濵田先輩を悪くいう人もいるんだなんて。
「気をつけます。」
と、返事をしたのはいいがなにか濵田先輩に悪いところがあるのか、と不思議でたまらなかった。
それから1時間。
いつも校門前に来る時間を過ぎても濵田先輩は現れない。ちゃんと今日も約束したはずなんだけどなぁ。
いつも約束は必ず守る濵田先輩だから何かあったんじゃないのかと心配しながら待つこと2時間。
濵田先輩が猛ダッシュしながらごめぇーーん!!!ってこっちに走ってきた。
「学校の課題出し忘れてて怒られてもうたわぁ~笑」
ごめんなぁ疲れたやろ?って頭ぽんぽんしてくる濵田先輩ずるい。でも一瞬で元気なった。
「? 濵田先輩、今日甘い匂いしますね!香水でもつけたんですか?」
「え?あ、あぁ、女の子と会うからや!俺やってオシャレせんとあかんやろ!」
「私のために?」
「そうやで!これからも差し入れ頼むわ~!笑」
嬉しい。濵田先輩が私のために。その言葉だけで心が弾んだ。これからもずっと濵田先輩だけが好きだ。
濵田先輩といるだけで幸せだって。そう、思ってたのに。
次の日、また濵田先輩はいつもの時間に来なかった。
また課題出し忘れてたんだろう、と思って今回は自分が迎えに行ってあげることにした。
でも濵田先輩の教室に行ってもいないし、職員室に行ってもいない。
職員室にいる濵田先輩の担任の先生に聞いてみると、来ていない。と。
そして昨日も呼び出した覚えはない。らしい
どういうことなんだろう?と、学校の中を探し回る。すると、この時間には空いてるはずのない図書室から濵田先輩の声が聞こえた。
「俺もう行かな、」
「まだいいじゃん、たかひろ、ねぇもう1回」
衝撃だった。まさか、あの濵田先輩がこの時間に女の人と会ってるなんて。しかも、ただならぬ雰囲気。
「俺のこと待ってる子がおんねんて」
「どーせその子ももうすぐ抱いて捨てるんでしょ?」
その子も?どういうこと?ずっと濵田先輩はそんなことしてきたの?
やっとここで陸上部の人が言ったことを理解した。そういうことだったのだと。
でも、信じられない。あんなに優しくて素敵な先輩だったのに。私を抱いて捨てるの?
「ま、そのうちやな」
本当にショックだった。涙が止まらなくて、胸が痛くて。
「じゃ、行くわ」
濵田先輩が図書室から出ようとしてる。隠れなきゃ。すぐ隣にあったロッカーの物陰に隠れた。
濵田先輩が私に気付くことなく目の前を通り過ぎていく。
その日は家に帰ってからも涙が止まらなかったんだ。
それから、濵田先輩を探してはいつも違う女の子といるのを見てショックを受ける。
校門の前で濵田先輩を待つこともなくなった。
「あ、先輩。」
教室移動中に濵田先輩がこちらに気付いて近づいてきた。
「最近、来おへんけど何かあったんか?大丈夫?」
これは、偽物なんだ。偽物の濵田先輩。裏では沢山の女の子と…
「大丈夫です。もう、差し入れ作れなくなりました、ごめんなさい、それじゃあ」
「待って!俺なんかしてもうた?してたんなら謝る。ごめんなさい。」
濵田先輩に握られた手があつい。こういうところが、ずるいんだ。本当の濵田先輩を知ってもまだ好きだ。最低な人なのに。
「…離してください」
「…本当のこと知ってもうたんや?俺のこと」
「っ!」
握る手に力が入る。手が痛い。濵田先輩がすごく怖い顔でこちらを見ている。こんな先輩初めて見た。
「今日の放課後、図書室こい」
手をパッと離して去って行った。濵田先輩の本当の姿を見るのが怖くて仕方なかった。でも反対にもっと濵田先輩のことが知りたいとも思った。
放課後、図書室に行くと濵田先輩はもう来ていて本棚と本棚の間にあるソファに腰掛けていた。
「俺なぁ、人のものが欲しなってまうんよ」
「え?」
「友達の彼女とか。大好物。他人の物が自分の物になるのが楽しくて仕方ないねん」
「教師同士で付き合ってても欲しくなる。たとえ教師といってもただの女だから抱くのなんて簡単やし。」
「…最低」
「そんな俺の裏にも気付かずに近づいてきたのはお前やろ?」
濵田先輩の本当の姿は表とは真逆で。気付かなかった自分もバカだ。
「友達の彼女とったって俺がやるわけないってなるし、好都合。もっと仲悪くなって結局俺のとこ来るしな。」
「で?お前はどうされたいん?このままここで俺に抱かれるか?」
「そんなのっ…」
「迷ってんやろ?俺のことがまだ好きやから。」
図星だ。こんな最低な人なのにまだ好きな気持ちが捨てられない自分は。本当のバカ。
「今までの差し入れ分、ここで返したるわ。お前は俺の暇つぶしにぴったりやねん」
濵田先輩が近づいてきて私の耳元に顔を寄せる。
「…ほら、抱いてくださいって言わなあかんやろ?」
こんな人にまだ恋心を抱いてる自分。こんなの初めてで。でもそれが刺激にかわる。その瞬間はきっと、濵田先輩に心を許してしまった証。
「…先輩、私を、」
「後悔はさせへんで。 俺にお前全部くれるなら、」
ほら、
あなたもきっと濵田先輩に騙される