濱田くんのバレンタイン妄想
高校生活最後のバレンタイン。来年は濱田先輩がいなくなってしまうから今日が本当に最後のチャンス。
大量の友チョコと濱田先輩専用チョコをかばんに入れ家を飛び出すわたし。
まだ学校にも着いていないのに緊張でかばんにぎゅっと力が入る。
なんなんだこの緊張感は...。今までに味わったことのないくらいの胸の高鳴り。いつもより学校への道が近いように感じた。
教室に入って席に着くとさっそく後ろの席の藤井流星が話しかけてきた。
「おはよ、俺にチョコは?」
「おはよ、てかさっそくだね」
「ええやん。どーせ俺にくれんの義理やろ?」
「本命チョコなんていくらでももらえるでしょ」
「まーな。すでに大収穫やわ!」
とぼけてみせる流星に愛想笑いで済ます。すると急に改まって、うそやって。お前の欲しかってん。一週間前くらいから楽しみにしてたで?って言うからしょうがなく
「...はい。ハッピーバレンタイン義理チョコ!」
「はっきり言うなや!笑 あれ、それは?」
流星の視線の先には濱田先輩専用のチョコレート。明らかに他のチョコとはラッピングも出来も違う。ガチ物である。
「これは...その、濱田先輩に」
「ほー。俺のと全然ちゃうやんか。」
「本命なんだもん...」
「濱ちゃん廊下でたくさんチョコもらってたで」
やっぱり濱田先輩モテるのか〜〜〜〜!いくつチョコもらってるんだろ?本命チョコはもうもらったかな?なんてうじうじ考えてたら後ろから神ちゃんの声が。
「も〜流星!なにいじめてわらっとんねん!可哀想やろ!ほら大丈夫やって!渡してき?」
「緊張してむり...恥ずかしい!」
「安心せい!さっき濱ちゃんが今年も義理ばっかや〜言うとったで?」
「...行ってくる」
もうこうなったら勢いに任せて渡すしかない!!神ちゃんの頑張れよ〜の声を背に教室を飛び出す。
…やっぱ恋してる女の子はおもろいな〜なんて神ちゃんが言うてるけど俺は全然おもんない。
「流星、顔に出とんで。」
「なんであいつ行かせたん?」
「そりゃ恋してたら応援したくなるやろ?」
「あいつのは応援したない。」
「まさか流星が濱ちゃんに負けるとはな!」
もう一回言う。神ちゃんが意外やな〜ってわろうとるけど俺は全くおもんない。ひそかに好きだった女の子奪われてなにがおもろいっちゅーねん。
静かにメラメラと濱ちゃんに対抗心を燃やす流星くんは果たしてどうなるのだろうか。こうご期待。
「濱田先輩!」
ちょうど廊下にいた先輩に声をかけた。っと、ちょっとまて。先輩の手にぶら下がってる大量のチョコレートはなんなんだ。モッテモテじゃないか!
「おー!どしたん?」
「その、えーっと、あ〜〜〜そのチョコすごいですね!」
何言ってんだ自分。
「これ?女子から慰めのチョコやって!ひどない?本命ひとっつもあらへん!」
「義理チョコに見せかけて本命チョコあるかもしれませんよ?」
「え〜〜、そんなんあらへんよ〜!じゃあなに?本命チョコくれんの?」
冗談っぽく濱田先輩が手を差し出す。
きたこれはチャンス!! 私は恐る恐る後ろに隠していた濱田先輩へのチョコを出そうとした時。
「濱ちゃ〜〜〜ん!今年も収穫なしのかっわいそうな濱ちゃんに俺の姉ちゃんからのチョコ!」
小瀧くんが濱田先輩に抱きついてそう言う。対する濱田先輩はふつーに嬉しそう。
「まじで!?さんきゅー!のぞむの姉ちゃん作んの上手いなぁ!」
「てか濱ちゃんたくさんもらってるやん!なんで!?いつからそんなんなったん!??」
「へっへー!この子もな、俺にくれんねんで?チョコ!ええやろ!!」
「えっ!?先輩久しぶりやん!ちっさくて気付かへんかった!それ義理チョコやろ?俺にもくださいよぉ〜〜!」
「...やだ!」
義理チョコじゃないもん!濱田先輩のために作った特別なチョコだし!!
...なんてもちろん言えないわけで。
「...わたし教室もどります」
まって!って濱田先輩の声が聞こえたけど素直に振り返れないのがわたし。あーあ小瀧くんに邪魔されただけでなんであげなかったんだわたし。なに最高のチャンス逃してんだよわたし!!!!
「神ちゃん〜〜、渡せなかった。」
「渡せなかったん?なにかあった?」
「も〜〜〜、小瀧くんに邪魔された!」
「さすがのぞむやな、」
「こんな頑張ったのに義理チョコって言われたし...」
よしよしってしてくれる神ちゃん。あたまわしゃしわしゃしてくる流星。
俺はお前のチョコ嫌いじゃないで。って流星がめずらしくなぐさめてくれたから来年はもっといいチョコあげようかなって思ったり思わなかったり。
そしてあっという間に学校のバレンタインが終わろうとしている。
結局わたしはあれ以降濱田先輩に会いに行けず、すれ違っても避けるように目を伏せて小走り。
自分でも思うけどなかなか素直じゃない。最後のチャンスだったのになぁと思うだけで時間が進んでいく。
「おい、帰んで。お前の好きなもんじゃ焼き連れてったる。」
「今日はやけに優しいじゃん?どうしたの?」
「別になんもあらへん。はよカバン持って」
いつもどおり流星と帰るのにこんなに流星を頼もしく思ったのははじめて。
それから流星とどーでもいいくだらない話を聞いたり話したり。おいしくもんじゃをいただいた。
「今日はおごったる。」
「え、悪いしいいよ!割り勘しよ!」
急いでかばんから財布を引っ張り出す。と、濱田先輩に渡すはずだったチョコがコトンと落ちる。それを見て胸がちくんと痛む。
「俺が全部だすから。その代わり、これもらうな」
落ちたチョコを流星がサッと拾う。
それからずっと流星の手にはチョコレート。帰り道にしまうことも無くずっと。そろそろわたしの家に着きそう。そんな時。
「あ、濱ちゃんや」
「え?」
目の前をフラフラ歩いている濱田先輩が目に入った。相変わらず危なっかしいひとだ。
「じゃあ、ん。」
流星が目の前に差し出したのはさっき流星にあげた濱田先輩専用チョコ。
「このままやと後悔するやろ。はよ行ってこい。」
「でも、これはもう流星にあげたもので...」
「はぁ?濱ちゃんのために作ったチョコなんていくらお前の手作りでもいらんわ。」
「...ごめんね」
「別にええし。俺は濱ちゃんとちがっていっぱい本命もらっとるから。一個くらい本命あげてやらな。」
ぽんって流星がわたしの背中を押す。
「...もしのもし、もらってくれへんかったら俺が食べる。」
耳元でこそっと呟く。そして行け、というように、しっしっと手で合図する。
「行ってくる!」
ゆっくり歩く濱田先輩に追いつくのはそう難しくはなかった。
「濱田先輩!」
「ん?あ!やっと来た!俺のこと避けてたやろ?」
「ごめんなさい...これ!濱田先輩に渡したくて!」
やっと渡せた。落とした時に箱の角がへこんでちょっと形が変だけど。
「わぁ!これ俺に!?ありがとう!!めっちゃ嬉しいわぁ〜」
私の好きなニッコニコの笑顔の濱田先輩。そんなに嬉しかったのだろうか。
「先輩うれしい?」
「めっちゃ嬉しいで!くれるかな〜どうかな〜思っとったし!」
「濱田先輩に喜んでもらえてわたしも嬉しいです!」
「もしかして、やけど...これ、本命だったり?」
「...さぁ?」
なに!?実は自分小悪魔なん!?ってやけにテンション高めな濱田先輩を見て最高に幸せなバレンタイン。
「でも小悪魔嫌いじゃないで!!」
ちゃんとわたしの想いは伝わった...かも??