会いたい
◎藤井流星
「おれは会いたいんやけどね」
同い年の藤井流星とは学生のときから付き合っていてなんでも言える間柄。お互い今年新社会人になって予定も合わなくてすれ違う日々になんとなく寂しさを感じてた頃、彼から電話がかかってきた。
「…あ、もしもし、久しぶりやね」
「うん、久しぶり」
今までこんなに気まずいことなかったのに、わたしたちの間に緊張感が漂う。
「なんやねん、やけに大人しいやんか?」
「え、そうかな?」
「さみしかったんちゃうん?(笑)」
電話越しに彼がニヤニヤしてからかっている感じが伝わる。今まではなんでも言えたのに。今はなぜか「会いたい」が言えない。
「わたしは平気だったよ」
そう言うと、少し沈黙が続いてから彼が「ふーん」と言ってさっきの言葉を小さくつぶやいた。
「え?」
「あ〜…今から会えへんの?」
「だってもう夜だよ?明日だって朝からでしょ?」
彼だって新人研修もあって大変だから言うの我慢してたのに、こんなにも簡単に会いたいって言ってくれるなんて。
「会いたいって言うてくれたらおれ行くけど」
「…あいたい…かも」
「ん、じゃ今から向かうわ」
しばらくして一人暮らしのわたしのアパートに彼が到着したと知らせるインターホン。鍵を開けるといつもより髪の毛をスッキリとまとめた彼がいた。
「…久しぶりに見たら顔死んどるやんか(笑)」
彼のくしゃっと笑った顔に安心してぎゅっと抱きついた。
「会いたくなったら言うてや、おれ彼氏やねんからさ」
「うん、言うね」
「…ちゅーしてええ?」
「うん、今日は特別」
「…あ〜やけに素直やし帰りたなくなるわ〜(笑)」
玄関のドアをパタンと締めたら彼の甘い香りに包まれる夜。
◎小瀧望
「あ、もしもしおれやけど」
ガヤガヤとうるさい音のなかに大好きな彼の優しい声。声を聞くだけで元気になれるんだから彼はすごい。
「どうしたの?」
「おれに言いたいことあるやろ」
「え?ないよ?」
えぇ〜〜と不服そうにつぶやく彼。
「なに?」
返事を催促すると
「会いたいっておもってるのおれだけ?」
いつもは声が大きくて聞こえやすい声が、今の言葉はなんだかモソモソしてて耳がくすぐったい。久しぶりに聞いたこの声。甘えてるときの声だ。
「わたしも会いたいよ」
すると急に聞こえる彼のかすかな笑い声。
「おそい。…そうやって言うん待ってた」
すこしいじけたように言うから愛しさが溢れる。
「じゃあのぞむの家行くね」
「いやええよ、おれが好きそうなお酒とつまみ買って待ってて、」
「わかった」
「もしおれが好きじゃないヤツ買ってたらお詫びにちゅーしてや」
そういうと一方的に電話を切られる。
しばらくして彼が家に来るとテーブルの上に置いてあるお酒とつまみをみて、
「これおれが好きなヤツ!なんでわかったん!?(笑)」
「一緒に飲んだことあるからわかるよ!」
って言えば
「じゃあご褒美にちゅーする」
って大きなワンコがのしかかってきて短いキスを何度も。
「…他にイヌ飼い始めたんやないかなってちょっと心配やった」
「え?イヌ?」
意味がわからなくて彼に聞き返すと、ふっと可愛らしくわらって
「もうこのひとぜーーんぶ俺の!」
ギューーって抱きつかれて離してくれないからお酒とおつまみはもうすこしあとに彼と。