も〜なんで気付いてくれないの
「ほら〜もう起きんとやばいから、こら!起きんさい」
毛布を剥がされ若干不機嫌になる。まぁでも神ちゃんだから許せるけど。
無言で手を神ちゃんの方へ伸ばすと必ず手を握ってグッと起こしてくれるんだ。ジェントルマン神山。これはこないだ藤井くんがボソッと言ってたやつ。
「行きますよ〜〜」
手を引いてリビングまで連れてってくれるからあとは自分でやる。その間神ちゃんはペッタンコだった髪の毛をセットしていつものかっこいいカワイイ神ちゃんになるんだ。
「準備おわった?行ける?」
『行ける!』
神ちゃんが玄関のドアを開けてくれる。これがわたしの日課だ。幸せ...
「今日中間先生の授業あるやんな?課題やったん?」
『やってない!神ちゃんやってる?』
「やってあるけどぉイマイチ分からんねんなぁ」
『このまえ中間先生に「神ちゃん文法がめちゃくちゃや!」って言われてたもんね(笑)』
「せやんな(笑)」
この何気ない会話がたまらなく好きで毎日のちいさな楽しみ。
...
教室に入ってまず第一声が
「流星が課題をやってる!!」
『どうしたの!?』
よっ、って軽く手を挙げて挨拶して教科書をじっと見つめる。
「課題やってこなかったらサッカー部のボール拾いにするって言われたんよ、じゅんたに」
「まぁ流星寝てばっかやもんな」
「あいつが寝たくなる声してんねん!」
『どんな言い訳だよ...てかわたしもやらなきゃ、神ちゃんみせて〜〜』
「神ちゃんやってあるん!?ちょ、ちょっとだけ...ちょっとみせて」
「いやぁおれのあってるか分からんねんて、英語苦手なんやもん」
「おれの学力に比べたら神ちゃんの方が高いやん、...あ、身長は低いけど」
そのまま神ちゃんのバックをあさり課題を丸写しする藤井くん。
「誰がちっちゃいや!」
「...へへ」
わかる。神ちゃんカワイイよね。藤井くんがイジリたくなる気持ち、わたしにはわかるよ。
無事に藤井くんとわたしは課題を写し終わっていざ授業。わたしたち3人の座席は窓側のいちばん後ろから流星くん、神ちゃん、わたし。今日のあたる順番はわたしがいちばん最初。
「じゃあこの問題を〜出席番号22番、訳して」
わたしだ。
『わたしは予定の電車に乗り遅れたが、間に合った』
「ん、じゃあその後ろ、あ、神ちゃんか、答えはどうなった?」
「同じです」
「同じなん?へ〜、その後ろは?藤井?今日は起きてるんや」
「おれも答え同じっす」
「...その3人が答え同じってことは、...写したやろ?」
あ、バレたな。
『え、わたし神ちゃんの写したっけ?』
「ん〜...どうやったかな〜」
「おれ神ちゃんの写してないで?神ちゃんがおれの写したんやもん」
「えぇ〜〜流星裏切りやでそれ」
『そうだよ藤井くん!裏切りだよ!』
「え?うん...まぁね、裏切りは...いかんよな」
「で、写したんやな?おまえら」
『「.........はい」』
...
「あ〜〜めっちゃこき使われた!体育館掃除を3人でって鬼畜すぎるやろ!」
「まぁ流星はボール拾いはまぬがれたんやしええやん」
『中間先生が「写す努力をしたことは褒めたるわ」って言ってたよ』
「流星相当下に見られとんな(笑)」
『帰ろ〜〜』
「あ、今日はちょっと、」
「神ちゃんなにか用事なん?」
「ジム行くんよ、じゃ」
軽くバイバイと手を振って行ってしまった。神ちゃんのモノマネパレード面白いからまたやってもらおうとおもってたのに。残念。
「ふたりで帰るの初めてやんな?なんか変な感じやわぁ(笑)」
『ね〜〜』
流星くん改めて近くで見るとデカいなぁ…。そして腰のチェーンがジャラジャラうるさい。
するといきなり藤井くんがこちらを向いて話しかけてきた。
「...ずっと気になってたんやけどさぁ、おまえ神ちゃんのこと好きやろ?」
『...え.........ばれた?(笑)』
「バレるわぁ〜(笑)もうまんま顔に出てんで?」
『ん〜でも神ちゃん気づいてないんだよね…友達としか見られてない気がする』
「アレや、ほら、押してダメなら引いてみろってやつや!」
藤井くんがすっごいこと思いついた!って感じのキラキラした笑顔でこっちを見てくる。何でそんなに楽しそうなの...
『上手くいくかなぁ…変に距離ができちゃうのはやだな』
「ふ〜ん、そっか。ま、気が向いた時にやりや。そん時は手伝ったる」
『藤井くんは神ちゃんのつぎに優しいね!』
「それ褒めてる?(笑)」
ふんわり笑う藤井くんの顔の綺麗なこと。この人の彼女になったら色々大変だな。
...
次の日。いつも通りの朝。窓から日光が差し込み、爽快な気分だ。だけどいつもと違うことがひとつだけ.........
『神ちゃんがこない...』
なぜだなぜだ。今までこんなことなかったのに。
『いやまず遅刻だこれ...』
普段から神ちゃんに頼りっぱなしだから目覚ましもかけずに寝てるのがいけないか。
いや、でもさ、朝に目覚ましがジリジリうるさく鳴るなか目覚めるのと、神ちゃんが優しい声で「ほら〜も〜起きんさい!」って顔ぺちぺちされて目覚めるのとはぜんっぜん違うじゃん???そういうことだよね!
そう自分に言い聞かせながら準備する。今日にかぎってお母さんはいないし。
『神ちゃん〜〜......なにかしちゃったかな』
神ちゃんは怒ったこともないし起こしに来なかったこともないしなぁ。
直接きくしかないよね。
朝ごはんも何故か喉を通らないので食べないで家を出る。いつもの学校までの道は神ちゃんが隣にいないとこんなにも寂しいものか。高校でクラスが一緒になって、家が近くだってことを知って、いつの間にかこんな兄妹みたいな関係に。
たぶん神ちゃんはわたしのことをなんとも思っていない。だっていくらテレビでよく見る人をかっこいいって言っても「ほ〜」しか言わない。
わたしは好きだけど、神ちゃんは他に好きな人がいるのだろうか。
...
教室に入るとちょうど昼休みになったようでみんなが各自ワーワーとおしゃべりをしながらお弁当を出していた。
とっさに神ちゃんの姿をさがす。
『いない......なんで?藤井くんもいないし…』
大きくため息をついた。そのとき、頭を叩くパシッという音と軽い衝撃が。
「や〜〜っときたなぁ、心配しとったで」
振り返ると見馴れた姿とその隣に大きいひと。
『神ちゃん〜〜なんで来なかったの〜わたしも心配したよ〜』
「すまんおれも寝坊してん...さすがに先行ったかなとおもって家寄らなかったんよ」
『寝てた〜〜〜〜そのとき寝てた〜〜〜〜〜』
「ごめんごめん」
いつもの神ちゃんの声のトーンと優しさと、そして最後の頭ポンポンで半べそもなおる。神ちゃんはわたしにとって偉大なのだ。
「はやくお昼たべへん〜〜?ふたりが再会してるのはええねんけどさぁ」
「せやね、食べよか」
神ちゃんも寝坊しちゃっただけなのか〜...よかった〜
「そういや神ちゃんはなんで寝坊したん?」
「ダンス部の田中さんにヘアアレンジをテレビ電話で教えててん。分かんないって連絡きてさ、それが夜遅くまでかかった」
『...へ〜そっか』
「それは大変やったなぁ」
『神山くん!』
あ、田中さんだ。
『昨日はありがとう!おかげで上手くできそう!』
「そりゃよかったわ、」
『今日寝坊ちゃったのわたしのせいだよね…明け方まで付き合ってくれて...ほんとごめん、』
「ええよ、また分からなくなったらきいてな」
『ほんと...?じゃあ、今きいてもいいかな?』
「ん〜〜......いま行ってきてええかな?」
ちらっとこっちを見てきいてくる神ちゃん。そんなの、イヤだなんて言えるわけがない。
『いいよ!』
「ええよ!」
「ん、(笑)じゃあ行ってくるわ」
パタパタと田中さんについて行ってしまった。
「......いやならいやって言えばよかったんやない?」
『言えないよ...神ちゃん誰にでも優しいもん
...』
「........................」
『........................』
「........................」
『.........押してダメなら引いてみろか...』
「急やな」
『なにもアクション起こさなかったらずっとこのままな気がするんだもん』
「...それは避けたいやんな」
『...手伝ってくれる?』
「......ん、おっけ、」
藤井くんと無言のハイタッチ。わたしと藤井くんとの間に新たな絆、そして生まれた押してダメなら引いてみろ作戦!!!
...
「え、一緒に帰らへんの?」
『今日は...藤井くんと、あの〜...ほら、スイーツを食べに...』
「流星と?ん〜じゃあおれも行こかな」
『...うっ...えっと〜〜〜...藤井くんに相談したいことあるからさ...今日は、...ふたりで、その〜〜お願いします...』
「おれいちゃダメな感じか、そっか、」
おれに言えへんこともあるよな〜って少しさみしそうに笑いながら頭かく神ちゃん。もうすでに心が痛い。
助けを求めて藤井くんに目線をやるも「しゃーない」と口パクで返される。
つらい。なんでわたしは神ちゃんを困らすようなことをしてるんだ。バカだわたし。
「まぁ別にええんやけどさ、困ったことあったらおれにも頼りや、力になるから。な?」
ポンポンと頭をたたいてひとり帰っていく神ちゃん。
「...なんやふたりして悲しそうな顔して」
『藤井くん、これしんどいね…』
「じゃあ次で最後にするか」
『次もやるの〜〜〜(泣)神ちゃん悲しそうな顔してた〜〜〜〜〜〜(泣)』
「効果ありってことやん!」
たしかにそれもそうか...と思いながら藤井くんと歩き始める。
「で、どこ行く?」
『抹茶のスイーツ食べよ!それで神ちゃんにもお土産買っていってあげよう!』
「そやな、神ちゃんきっと喜ぶで」
神ちゃんが喜ぶ、その言葉ひとつでウキウキする自分に少しあきれる。どんだけ神ちゃんのこと好きなんだ。
...
「起きて〜〜〜〜あ〜もう、遅刻してまうから!」
いつものように両腕をぐいっと引っ張って起こしてくれる神ちゃん。
『...神ちゃんおはよ〜〜...昨日はごめんね〜〜(泣)』
「なんや寝ぼけてるんか?(笑)ええよ、」
リビングまで手を引いていってイスに座らせてくれる。もう朝食はできているみたいだ。
おいしそうな朝食をどれから食べようか迷っていたら、いきなり神ちゃんがまだ握られていた手に力を込めた。
「...ちょっと寂しかってんけどね」
その小さすぎる声はわたしには届かなかった。
『え?なになに?』
「...ん〜ん、なんでも。早く食べや」
そそくさと行ってしまう神ちゃん。なんて言ったのだろうかとわたしの頭はハテナマークが飛び交っていた。
...
『あ、藤井くんおはよ〜!』
「流星おはよ」
「おふたりさんおはよ、...な〜〜〜〜〜きいてや!またじゅんたに課題出されてん!しかもおれだけ!」
「目つけられとんな(笑)」
「そうやねん、...。なぁここおしえてや〜〜」
『え、わたし?』
「ほら、英語得意やん?」
『えっ...あっそう!そうだね!教えるよ!』
「こいつ英語苦手やで?」
「いやっ、昨日...な!得意になってんな!」
『そうそう!あ、えっとここはね〜〜』
半強制的に話を終わらせて藤井くんに教え始める。すると、神ちゃんは不思議そうな顔をしながらも自分の席へついた。
「今日で最後や、頑張りや」
『がんばる!』
藤井くんとコソコソ声で励ましあって勇気が出た!わたしがんばる!!いつか神ちゃんに振り向いてもらうんだ!!
...
放課後。
「じゃ、おれ先に下行って待ってるわ!」
『わかった!』
わたしも急いで帰りの身支度をする。チラッと神ちゃんのほうを見るとまた田中さんと話していた。
もう...また話してる...。
モヤモヤする。でもわたしにはどうもできない。神ちゃんにバイバイを言うのを諦めて教室を出る。すると、
「ちょっと待って!」
手を掴まれて引き止められる。振り向くとそこには神ちゃんがいた。
「また流星と帰るん?ふたりで?」
『うん、』
「なんか避けられてる気すんねんけど…気のせい?」
『気のせいだよ?...あ、そうだ。昨日のお土産!神ちゃんの好きなスイーツだよ!』
「...昨日は流星となに話してたん?そんなにおれに聞かれたくない話やったん?」
『え...ちがうけど、でも...藤井くんに聞いて欲しかったというか...』
「............おれにも頼れや、...流星ばっかやなくて、おれにも頼って欲しい。」
『...そっか、ごめんね!今度から神ちゃんにも頼るから!』
それじゃ、って藤井くんの元へ行こうとするけど手を話してくれない。いつもより強引な神ちゃんにドキドキする。神ちゃんが神ちゃんじゃないみたいだ。
「...行くな、行ったらもう朝起こしに行くのも一緒に登下校もせん、」
『えっちょっとそれは...』
「............好きだから、おれのそばにおって」
『.....................え?』
「おれスイーツ好きやけど、流星とおまえがふたりで買ってきたスイーツは嫌いや」
思考が停止する。いまわたしは神ちゃんになにを言われているのだ...??
ずっと待ち望んでいた言葉なのににわかに信じられない。
「どうしても流星のとこ行きたいんなら手振り払ってや」
『.........................................................』
「...流星と一緒にいるの見るのがイヤやねん...」
なんでそんな悲しそうな顔で言うの...
『行かないよ...神ちゃんのこと好きだもん』
「え、.........ちょ、...ほんま?」
『神ちゃんが田中さんと仲良くするから...神ちゃんのことわざと避けてたの...ごめん』
申しわけなくて下を向く。するとため息がきこえて、神ちゃん呆れちゃったかなと思ってちらっと見たらいつもの優しい顔の神ちゃん。あぁ...そうだ、この神ちゃんが好きなんだ。
「も〜ほんっまに、どんな心配してんねん!言われなくてもおまえしか見えてへんわ!」
『...神ちゃんごめんね〜〜〜〜〜(泣)』
「はいはい、もうええから」
いつもの神ちゃんがしてくれる頭ポンポン。これがとっても落ち着くし好きなんだ。
「泣いたら目腫れてまうから、ほら、泣き止む」
『むり〜〜〜(泣)』
「今日おれん家寄ってってや、スイーツ一緒に食べよか」
『...うん!』
ふたりで手を繋ぎながら神ちゃん家を目指す。こんな日がくるなんて。わたしは幸せ者だ...
「ちょい、おふたりさんさぁおれのこと忘れてへん?」
『はっ藤井くん!ごめん!!』
「ま、ふたりが来るの遅い時点で何となく気づいてたけどな」
「そや、流星も来る?おれん家でスイーツ食べんねんけど」
「神ちゃん余裕やな〜〜〜さすが彼氏に昇格するとちがうわ〜〜(笑)」
「まぁな(笑)」
『じゃあ3人で食べよ!』
...
...
「はよ起きんと遅刻やで!...こら!寝た振りせんと!」
わたしのほっぺをぺちぺちたたきながら言う。もちろんわたしは不機嫌にならない。だってずっと好きだった神ちゃんが起こしに来てくれて、そして彼氏になったんだから。
リビングまで手を引いてくれる神ちゃん。
「お寝ぼけさんこっちやで〜〜〜〜〜はいはい行きますよ〜〜〜〜〜〜〜〜」
『...神ちゃん今日は髪の毛編み込む?』
「そう思っとったけど...おそろいでやったろか?」
『いいの!?やった!!』
「じゃあはやく朝食食べてきーや」
『わかった!』
わたしはこんな毎日が幸せである。